WikiLinkGame の開発者が、このゲームを作った背景を綴ります。
WikiLinkGame を作りたいと思ったのは、実はもう10年以上前のことです。ずっと構想だけをメモに残していて、ようやく形にしました。きっかけは、私が大学院で書いた修士論文のテーマ「グラフ理論」にあります。
グラフというと、x軸とy軸の平面図を思い浮かべる人が多いかもしれません。でも私が扱っていたグラフは、点(ノード)と、それをつなぐ線(エッジ)でできたものです。世の中のいろいろな「関係性」は、この点と線で表せます。たとえば、SNSの利用者を点として友だち関係を線でつなげば「人間関係のグラフ」に、空港を点として直行便を線でつなげば「航空路線のグラフ」になります。WikiLinkGame が題材にしている Wikipedia も、記事を点、記事から記事へのリンクを線と見れば、巨大なグラフそのものです。
「友だちの友だちの……とたどっていくと、6人くらいで世界中の誰にでもつながるらしい」という話を聞いたことはないでしょうか。これは六次の隔たりと呼ばれる考え方です。さすがに文字どおり全員とは言い過ぎですが、「世間は狭い」と感じる程度には、現実のネットワークは意外と少ないステップでつながっています。有名人を思い浮かべて、知り合いを何人か介せば案外近くまで行けそうだ、と想像してみると、この感覚が分かると思います。
人間関係のネットワークには、もう一つ面白い特徴があります。部活動の仲間どうしのように局所的には密につながっている一方で、そうした固まりどうしが少数の橋渡しでつながることで、全体としては誰にでも数ステップで届く——この二つの性質を同時に持つのです。これをスモールワールド性と呼びます。私が大学院で研究していたのは、まさにこの性質でした。
研究をしている中で、「Wikipediaはどの記事からどの記事へも、本文のリンクを6回たどれば行けるらしい」という話を耳にしました。日本語版の記事数は世界の人口よりずっと少ない150万ほど。だとすれば、本当にそうなっていてもおかしくありません。この話から着想を得て、「では、ちょうど2回でたどり着ける記事を当てるクイズにしたら面白いのでは?」と考えたのが、このゲームの原点です。1回だと答えが本文に丸見えですが、2回なら少し考える余地があり、意外な答えが正解になる。この距離感がちょうどよかったのです。
実装で気をつけたことがあります。多くの人が遊ぶたびに Wikipedia へアクセスしてリンクを調べると、Wikipedia のサーバーに負担をかけてしまいます。そこで本サイトは、Wikipedia が公式に無償公開しているダンプデータ(ある時点の全記事を書き出したファイル)を取得し、そこから問題を作っています。「今この瞬間のリンク」ではなくなりますが、Wikipedia に迷惑をかけないための選択です。こうしたデータを無償で公開してくれていることには、本当に感謝しています。
そんなわけで、10年以上あたためた構想がようやくゲームになりました。4択とはいえ意外と難しく、5問以上正解できたらかなりのものだと思います。よかったら、グラフ理論が生んだ「知の寄り道」を楽しんでみてください。